質権と抵当権

お金を貸すときに、万が一返済してもらえない場合に備えて、何か価値あるものを差し出すこと。
万が一、お金の返済ができない場合は、そのものを現金にして返済にあててもらいます。ということです。

現在もっとも一般的なのは、「抵当権」です。【対象不動産】(民法369条~)
受託ローンなどでおなじみですね。返済が続いている場合は、お金を借りた人が自分の持ち物として当然使うことができていると思います。

一方、担保権には「抵当権」だけではなく「質権」というものもあります。【対象動産、不動産、債権】(民法342条~)
これはもともと担保としてその物自体を差し入れるものです。債権者が使用収益できる代わりに無利息というのが原則でした。(不動産や債権では別段の定めが認められています)

ところが、不動産を担保にお金を貸すのは、業としておこなっている金融機関がほとんどです。業として行っていると、多くの不動産に権利があるでしょうから、むしろ不動産の管理は負担です。
返済が滞った時のために安心材料を持っておきたいだけなので、不動産質権のメリットがあまりないため、ほとんど利用されておりません。

ところが、質権は、設定できる範囲が抵当権より広いのですね。債務者が誰かに債権がある。その債権に対して設定することが可能です。
AさんがBさんに債権を持つ
→CさんがAさんにお金を貸す時にA→Bの債権に質権をつける。
→Cさんは、Bさんに対して直接債権の取り立てができる。

何でこんなことを思ったかというと「信託」です。
民法の世界で、不動産を所有していれば、「所有権」です。
ここから資金調達をしようとしたら、先ほどの抵当権を設定することになります。

ところが、この不動産を信託財産に入れて、信託の世界で管理するとします。
民法での所有権には「所有者としての義務」と「所有者としての使用収益」両方が同じ人に帰属しています。
信託法では「使用、管理」するのは財産を任された受託者です。
そこから、その不動産が生み出す利益を享受するのは「受益者」となる訳ですが、これは正確には「受益債権」なんです。投資用不動産であれば、そこから発生する賃料を得る権利。その賃料を「払って」と請求できる債権なんです。

だから、信託財産に入れた不動産から資金調達をしようとすると、「受益債権」なので質権設定をすることになる。
不動産を担保にすると原則競売になりますから、裁判所がからんで実際にそこから返済を受けるのは期間的にかなり先になります。
ところが、債権質権は、直接受託者に取り立てることができますから、むしろこの方が簡単ですね。

民法と信託法は全く違う制度ですから、同じ賃料を得たとしても、その裏付けとなる構成は全く違うものなんです。

ちなみに、不動産に質権をつけることも、やろうと思えば可能です。
この場合、登記自体は抵当権と似ています。(登録免許税や添付書類など)
「使用収益権をつけない」などの特約があれば、登記をしないとそれを権利として主張できません。
・不動産質権には10年という期限がある
・もし農地だったら、質権設定の段階で農地法の許可がいる(使用収益権ない場合は例外)
ということを考えれば、やはり抵当権の方が利用しやすいと思います。

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