私たちが公証役場にお世話になる際、一番多いのは、
・「公正証書遺言」です。それ以外にも
・「信託契約書」
・「任意後見契約」
・「離婚協議書」 などで良くお世話になります。
今日は「尊厳死宣言公正証書」についてお話したいと思います。
名前から、大体想像がつくとは思いますが、この書面はいざ命の選択を迫られた時にはとても重い意味を持ちます。また、担当する医師の先生にとっても、責任が発生しますから、公的な書面で、本人の意思を残すことにとても意味があります。
遺言作成に多く携わらせていただいている中で、「公正証書遺言」とセットで「尊厳死宣言」「臓器提供の意思表示公正証書」もご準備されているお客様がいらっしゃいました。
遺言には、書いて効力をもつことが法定されている関係で、それとは別に単独で準備すべきだからです。弊所にもご相談にお客様がいらっしゃいました。
私がこの「尊厳死宣言」に興味をもったのは、まずは
・ない場合に家族の負担がかかることと、
・以前勉強会で人工栄養の話を聞き、自分の身になって考えてみた時とても許容できないと感じたこと。です。
いつも、人の人生について命について考える時、私がイメージするのは、「大きなのっぽの古時計」のような時計です。ゆっくりチクタクチクタクしていたものが、だんだんゆっくりになり、自然に止まる。それが理想。逆にその前にぶつけたり、ぞんざいにして急停止してはいけないと思っています。だから、自然に命が止まるものを、無理やり何かに繋いで動かす必要はない。これは私の考えです。
「尊厳死」とは、患者が自己の意思も表現できない末期症状に至った場合に、人間としての尊厳を保った死を迎えるため、延命のためだけの治療行為を中止することを言います。(一方「安楽死」は、専ら患者の苦痛を除去するために死期を早めるための治療行為を行うことです。)
まだ動く時計の針を、無理やり止めてしまうのが安楽死。黙っていれば止まるものを、補助器具によって動かすのが延命です。
日本では、安楽死はダメだけど、尊厳死は認めてもいいのでは??といった考え方があったのですが、平成7年3月28日横浜地裁において、尊厳死が許容される要件について初めて司法判断が示されました。(判時1530・28)それ以降も議論が尽くされているとまではいえませんが、判決を踏まえ一定の基準があります。
①医学的にみて、治療不可能な状態にあること(不治)②死期が迫っていて、治療行為が人工的に死期を引き延ばすだけとなっていること(末期)③本人の意識が正常な段階において、延命治療中止に関する任意の意思表示があること
となっています。
余談ですがいわゆる持続的植物状態(回復不能な遷延性意識障害)は「不治」ではあっても「末期」ではないから尊厳死は許容できないという意見もあるので、尊厳死の対象は少し意見が分かれるところでもあります。
以下、尊厳死宣言公正証書のポイントです。
①尊厳死の対象:私が将来治療不可能な病気に罹り、死期が迫っている場合に備えて、~
②2名以上の医師による診断:私の担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、~
※法律要件ではありませんが、患者の状態を客観的に担保する必要がある
③一切の延命治療の中止:苦痛を和らげる最小限の医療行為を除く一切の延命治療を中止してください。
④家族の承諾があること:私は尊厳死についての自分の考えを、家族である長女〇〇(年月日生)、次女〇〇(年月日生)に伝え、全員の承諾を得ております。
※医療の現場では、延命治療の中止に当たり、本人の意思の他、家族が了承しているか否かも重視される状況にあるので、尊厳死宣言が実現のために、あらかじめ家族の了承を得ておくべきです。
⑤刑事訴追等の回避の要望:~私の医療に携わった方々が、私の尊厳死宣言に沿った行動をとったことは、私の意志を実現するためであることをよくご理解の上、これらの者を犯罪捜査や訴追対象とするこのないよう特にお願い致します。
⑥任意の意思表示であること:この意思表示は、私の精神が健全な状態にあるときにしたものであり、私自身が撤回しない限り、その効力を維持するのもであることを明らかにしておきます。
遺言と一緒で、せっかく作成しても、それが実現しなければ意味がありません。特に医療関係者の皆様が慎重になるところなので、なるべく躊躇わずに実行できるような内容にすることがポイントと思います。
遺言が「残されたご家族の負担軽減」と、「ご自身の意思の実現」であるならば、同じような発想で、準備される方がいらっしゃる公正証書です。ご興味ありましたら、ご相談ください。
その前に、ろうそくの火みたいに、最後の最後まで精一杯生きて、思い残すことはない人生を送りましょう!!
つつじが、綺麗でした。すれ違った方も「つつじが綺麗ねぇ」とお話しながらお散歩されてました。